第48回毎日書道展会員賞受賞
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毎日新聞1996年7月12日「ひと」 より 受賞の知らせを受けたのが1日。34歳の誕生日だ。 「こんなに若くもらえるなんて、夢みたいです。 素直な喜びも無理はない。会員賞受賞者26人の平均年齢が54歳。その最年少であり、68倍の難関を突破しての受賞であるからだ。 中学まではサッカー少年。高校で書道塾に入り、大学では経済を専攻した。 「卒業するとき、サラリーマンより未知数の書にかけてみたくなって」、書道塾の師である野崎幽谷さんに相談してみた。 「うちの書生をやってみるか。」の答えを引き出し、朝8時に師の家へ出勤。雑用や会報の編集などを手伝い、師と一杯やってから深夜に帰宅し、それから夜が明けるまで古典の臨書を続けた。 現代版の通い書生は、3年目に毎日賞を受賞するや、翌年から連続入賞し、29歳で毎日展会員に昇格。その年、毎日書道会からベルギー国立ゲント大学に短期講師として派遣された。 「手本を書くと、学生は私の気に入ったものから取っていく。ハッとしました。」 この体験以来、他人の目を気にせず、自分がほしいと思う作品を書くように切り替えた。さらに、現代絵画やクラシック音楽からも、創作やリズムのヒントを得る。 受賞作「陶淵明」は「遙かな狼煙」の5文字を紙面いっぱいに書いたものだ自らの狼煙でもある。 「陶淵明」(北村初雄)182×79センチ 淡墨を駆使して、大きく「遙かな狼煙」、と5字にじみの趣を発揮して自己の空間に狼煙を上げ、小字でさらに発展させて極めて高い効果をねらい成功させている。(金子聴松) |